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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)606号 判決 1950年6月20日

被告人

室泰三

主文

本件控訴を棄却する。

理由

被告人の控訴趣意と弁護人の控訴趣意第一点とについて。

案ずるに、原判決挙示の証人大畑新作の供述、証第一号の物品売渡証の記載、並びに被告人の原審公判廷における供述とを綜合すれば、原判決認定の(五)の事実を十分に認定することができる。被告人所有のものを売渡担保として他に譲渡し、これを占有保管中、擅に売却すれば、橫領罪が成立する。次に右担保物件の中、宅地を、担保として譲渡する以前に、既に金本金次郞に売却していたことは、前記証拠によつては、未だ十分には認められないが、仮りに金本に売却されていたとするも、その登記がない限り判示大畑組には、対抗することはできないもので、大畑組は、被告人から有効に担保として譲受けることができるのである。又前記証拠によれば、建物は、被告人から東池某に金六万五千円で売る契約が為され、三万円入金があり、残金三万五千円の支払があるときは、右建物は東池某の所有になることが認められるけれども、この旨の登記又は仮登記がないので、これも大畑組に対抗することはできない。それで、被告人が大畑組に建物を売渡担保として譲渡したのは、有効である。従つて大畑組に対する本件売買渡担保を無効とする控訴趣意は、理由がなく、原判決認定は、相当であるから、論旨は、孰れも採用することはできない。

(弁護人岩垣利助の控訴趣意)

第一点

原判決は其の理由第五項において「被告人は昭和二十三年十一月頃、富山県下新川郡櫻井町株式会社大畑組より、金弐拾万円を騙取した事件につき、其の被害弁償の意味で、同二十四年一月十三日同会社に対し、高山市神田町一丁目六十一番地の五宅地十六坪一合二勺、同市総和町一丁目五十番地所在木造二階建住宅一棟、布団参枚、座布団拾枚、、、、、、を売渡担保に供し、これを大畑組の委託により自宅に保管中単一意思のもとに、昭和二十四年二月頃より同年十月頃迄の間に、ほしいままに高山市花川町十六番地、広田淸市その他へ売却したり等して橫領したものである。」と判示した。然し大畑新作の証言並びに被告人の供述によれば、昭和二十四年一月頃には、既に前記物件の内宅地は、金本金次郞に売却されていて、被告人に其所有権なく、又家屋は其の所有者である東池某と、被告人との間に売買契約があつたのみで、其の所有権は、未だ被告人に移転して居らず、只東池某に対する債権を被告人が有して居たに過ぎない、その東池某に対する債権というのは被告人が同二十三年十一月中、東池某からその居住家屋を、金拾弐万円にて買受けて内金六万五千円を支払い東池某に於て同年末迄に金三万円、同二十四年三月末迄に金三万五千円と利息四千円を支払えば右売買契約を解除すべく、若し右約旨を履行せぬときは右十二万円の残代金の支払と引換に、右家屋の明渡を受け且つ所有権を取得する旨の約定に基いて発生した、東池某の同二十四年三月末迄に右三万五千円を支払うことを約した債権があつたのみであるから被告が大畑組に売渡担保に供したからとて其所有権は宅地も家屋も共に大畑組に移転する道理もなく、大畑組の委託により自宅に保管出来る筈のものでもない然るにこの宅地、家屋を橫領したと判示した原判決は審理不盡、且つ事実の誤認がある。

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